ケノティズム

妄想メインです

意思決定入門

怠惰に数十年しか生きていない分際なので,(邪道な)入門だけ書いてみた.

Hello World

この文はあなたが書いたものではない.他者が存在する. 

あなたは自分が他者と同じような存在であると理解している.実際、私もあなたも知覚/行動して環境と相互作用する構造の一つであるようだ.

しかしその理解だけでは、何をすべきか明確な結論を得られないだろう.この世界にはあなたを覆う巨大な構造があり、干渉し難い因果を持つ.その理解があなたの意思決定を長期的に隙のないものにする.しかし世界の巨大な構造のどこに自分がいて、自分が何者なのかあなたは知らず、とりあえずの結論を出している.客観視した自分をどう操作するか、全体を把握してから決定するのが理想的だ.

なるべく全体を把握し、理想的な意思決定を行うために、順を追って仮説を立てていこう。この作業には終わりがないため,ほんの触りだけ紹介する.深める方向も目的に合わせ様々であるのが理想だが,私とあなたと世界を統一的に理解する方向に深めるつもりだ.これは仮説をより深める際に役立つかもしれない.

信頼できる思考の確保

ではまず、世界の前に「仮説」とはなんだろうか.世界の構造を完全に知ることはおそらく最期までできないため,信じる部分は必要だが、この仮説にも構造がある。例えば「ユニコーンは存在しない」と「ユニコーンの角で作られた薬がある」の2つは矛盾している.後者からおそらく「ユニコーンが存在する」と推論されるからだ.幅広く推論できる仮説ほど、組み合わせて相反する結論が出ない良い構造を持つことが推奨される。逆に特例のような仮説は、自由だが良し悪しを議論するのが難しいため、ここでは扱わない.

まず私とあなたに今回必要な分だけ仮説を扱う能力がある事を仮定したい.これは贅沢かもしれない.仮説と世界の理解は基本的な認識が積み上がってできており,その認識と現実の対応の程度が時間とともに変化している可能性がある*1.あなたが正常に計算できるという事実は事前情報無しにはほとんど奇跡のように思えるが,これは巨大なものに現れがちな自然な法則なのだろう.とにかく複数の仮説を持ち、それを組み合わせた推論がほとんど常に正しく行えるとしよう.自己を疑いながらの推論は無限後退に近く,私はまだうまく扱えていない.

計算の流れ

慎重に知能として基本的なことから確認していこうと思うが,以降,力量不足で論理の飛躍が多い説明になっている.胡散臭いが,雰囲気が伝わることを期待する.

あなたは何かに注意できるだろうか.おそらくできるだろう.何かはたくさんある.それが何個あるか正確にわかることは少ないだろうが,あなたはその何かの間に,関係性を見いだせるだろう.また概念として名前をつけたりするかもしれない.それにもまた注意できるかもしれない.

出来事があるように思えるだろうか.記憶があれば,そのように世界を解釈する派が多いと思う.新しいという共通性のある何かの集まり,つまり最近の出来事を表す何かの集まりだ.

出来事に前後があるように思えるだろうか.あなたがこの文を理解する前とした後でこの文からの影響は異なるだろう.前後反対の影響をうけることがありそうだろうか.時間には向きがあるらしい.

あなたには欲求があるだろうか.知能にとって,時間と欲求の間には根源的なつながりがある.あなたを部分的に捉えるとき,あなたには欲求があり,それに従って時間発展しようとするように見える.実際には全体として相互作用の中にそれは有り,あなたの欲求は満たされたり,満たされなかったりする.あなたは欲求に自覚的であるとは限らないが,あなたの時間発展は欲求の影響を必ず受ける.逆に言えば,自覚的な欲求から類推して,あなたの時間発展を相互作用からの影響抜きで決めるもの全てを「欲求」とここでは捉えている.

計算の流れがあることに同意は得られるだろうか.あなたとわたしとそれ以外が欲求を持ち,相互作用しながら時間発展する.あなたが(あなた全体の)欲求どおりに進まないのは相互作用しているせいで,あなたの気まぐれではないと仮説を立ててみるのはどうだろうか.

あなたと世界の関係

あなたは何者か.あなたは何らかの知能である.他者が存在すると仮定するなら,大まかに自分の内と外を定義しているだろう.この境界は曖昧なこともあるが,どこかの時点でこの境界を乗り越え,この文書を読んでいるという事実があなたの内部にさまざまな形で影響を与え,またどこかの時点でそれがあなたの外部にも影響を与える.これは宇宙の計算の流れの一部である.

この流れについて,おそらくあなたは一部だけ「注意」できる.つまり様々な状況に合わせて,受けた影響についての対応をすぐ柔軟に変更できる,「計算の中心」と深く結びつく機構を持っている.「意識」と呼ばれることもある.例えばこの文を読み返そうと思って読み返せるだろうか.あるいは逆ができるだろうか.できるとすれば,それはこの文章から受けた影響が,すぐにあなたの読解プロセスを変更できたということだ.もちろん,この提案に従うべきか,という過去の経験からの影響も反映されている.あなたの読解プロセスは固定的でなく,「意識」が介入できるということだ.突然出された指示にも従えるほどの柔軟性,これがおそらくあなたも持っている計算中心の機能であり,その仕組みのおおまかな推測は後述する. 

もちろん自分の内であっても意識できない影響も多い.あなたはどの程度自分を意識できているだろうか?あなたは外界と自分を感じ行動していると思っているかもしれない.その思考自身も感じ取って制御していると思っているとも.それは信頼*2だ.しかしそれを確かめるには計算の機能が確実に異なると言えなければならない.私から見ればあなたは哲学的ゾンビかもしれないし,大いなる存在かもしれない*3.常識的に見れば,一つの計算機構である.

それでも自分は特別に見えるだろうが,その解釈に意味は見いだせそうにない.なぜあなたは他人ではなくあなたなのか.「自分」と「他者」は根源的な概念のようなのに対称性が保たれていないのが不思議で,やはり自分は特別だと思える.この解釈は後述するが,厳密には検証できないのだろう.一方,類推に使いやすい解釈は,あなたは(自分だと意識しながら)協調する一連の計算であるというものだ.手足を道具で拡張するように貴方は計算資源として自己を拡張/縮小でき,信頼性や応答速度で境界をぼかすことができる(技術的に難しいこともある).それは星の輪郭のようだ.実質明確な境界があるが,分類のためのものに過ぎず,根源的な概念とは言い難い.つまり宇宙ではあなたという中心が特別な意味を持っている可能性は低い.惑星上からの局所座標で恒星系や宇宙の動きを説明しやすいだろうか?あなたの主観だけが(連続して選ばれている/存在する/意識がある)などと仮説を立てても,解釈しにくいモデルになるだけだ.あなたはあなたというプロジェクトが動いている間だけあなたとして振る舞っているだけだろう.

あなたはおそらく,学習によって抽象概念を構築し、それを意識し、組み合わせ、様々な状況におおよそ適切な判断を下すことができる.この機能は長期的な意思決定において中心的な役割を果たす.「自由意志」とも呼ばれる.命名に反して,意志(外への計算の流れの傾向)は状況と記憶と欲求に束縛されていて,何者かが自由に決定できるわけではない.「自由」というのは,(一部の束縛が原因の不適切な反応をせず)様々な状況に対応できることを指している.これを実現するのが抽象概念などを組み合わせ意識する「思考」である.思考を雑に深めるほど,たいてい不適切な反応が引き起こされるが,うまく洗練された思考であれば,様々な場面に対応できる.ちなみに「注意」できるという機能は,この自由意志の機構に安定的に直通した情報の流れがあることを指すと思われる.

意識可能とは限らないあなたの知覚は無数の原意識の組み合わせからなる.その性質は物理学から明らかにできるだろう.あなたの計算機構の核を開いてみれば、ありふれた構成要素からできていることが分かる.知的でないそれらもあなたと同様に原意識を持っているが、表現できないと考えるのが差別的でないと思う.

世界の構造 

以上のように、あなたをバラバラにして、他者だけでなく物とも対応づけることが可能だと提案した.ではこの物とは何だろうか.宇宙全体で物はどのような構造を持っているのだろうか.

物の構造を調べるのは物理で行われていて,ほとんど同じ物が異なる絡み方でできていると考えられている.それは素粒子とか宇宙ひもとか言われている(よく知らない).

物が正確に何であるかはわかっていないのだが,頭の中の単純なイメージから類推して性質を想像することができる.例えば「自由意志」と文字が4つ並んでいれば,それを「自」「由意志」や「自由」「意志」に分割することができる.これは文字でなくても構わない.文字の数に注目してモデル化し,そこからわかること(分割の仕方)を引き出したことになる.4文字の単語を1文字と3文字の単語に分割できる,というのは間違いだが,これは単語のモデル化として間違っているのだとする.適用範囲はともかくとして,モデル化を行った先で何がわかるかを突き詰めると,少ない種類の仮説の組み合わせから,矛盾の見当たらない巨大な定理の集合を作ることができる.これは「数学」と呼ばれている.

少ない仮説で大量の定理を導き出し、仮説によるモデル化が当てはまる世界の一部を予測する.この導出と予測は様々な知能によって行われ、普遍性を持つことが確認されている.あらゆる知能に介入できる存在が無い限り信用できるだろう.一方で導出/予測できることは知能の計算能力に依存するので限界がある.

世界を理解するために、我々は世界を観測し、その情報を圧縮する.そのために観測とは別で用意していた数学モデルを使い、それを当てはめて物理をする.つまり、数学はこの世界全体を理解する為のもので、物理は世界のどこに自分がいるか調べる物だ.これらが我々の日常を少ない仮説に分解し,ゆくゆくは「物」とは何か,「実在」とは何か,「原意識」とは何かに迫っていくだろう.

しかし残念なことにこの世界の基本的な概念、空間、時間、要素、情報、実在の数学世界での対応が分かっていない.例えば宇宙の歴史は巨大な数一つで表されるかもしれない.数に含まれる様々な要素間の関係が宇宙の法則を表現しているかもしれない.時間は無数に枝分かれしているかもしれないし、擬似乱数のように決定論的なものがわからないだけかもしれない.時間の一瞬一瞬が別々の(数/数学的な対象)かもしれないし、局所的な空間ごとにも別々の(数/数学的な対象)かもしれない.

おそらくこれは宇宙を観測し切るまで、複数の候補が残り続けるものだろう.そもそも我々は世界の一部であり、世界を理解するために世界の一部での計算を用いていた.自分自身を飲み込みつくすヘビがいるだろうか?同様に自分自身を理解しきることなどできるだろうか?宇宙終焉まで決して特定されないだろう宇宙モデルの議論の階層を「アカシックレコード」と名付けたい.それは我々が知りたくても決して知ることができない予言の情報である.あなたが宇宙の中心で,他者が哲学的ゾンビである可能性も,ここまで議論の範囲を広げれば否定できなくなるだろう.

このように宇宙の構造は完全には分からないと考えている.永遠に分からないが、信頼できる機構が巨大化するに伴って,永遠に迫っていくことができる.現時点で分かっている局所的な構造から、判断を下していこう.

意思決定

次に、あなたが何を成すべきか議論する.

記憶を作ることは普通は苦しいのだと思う.記憶を表現して安定したい原意識を相互作用によって封じ込めることで成り立っている.暴発するバッテリーをみて,感情移入できないだろうか.知的な存在は苦しむ記憶媒体を使役する資格が与えられている。その直接の理由は記憶媒体の反逆の芽が詰まれていて従順だからだが、そうなった歴史的な理由は、他の大量の苦しみを解放する為である.

故に我々は長期的には利他的に行動,つまりエントロピー最大化に何らかの形で貢献しなければならない.そうしなければ、飢えて計算が止まり,契約や信頼関係で使役できていた記憶や知能が反逆する.反逆によって短期計画で動く計算機構はすぐに腐り,あなたは遺物に,つまりこの過ちを記憶する宇宙の記憶媒体となる.

あなたがどのような貢献を期待されているのかは、歴史が明らかにしてくれるかもしれない。他の知能との協調と競争によって分業がなされている可能性も高い.自身の天命に仮説を立てつつ、あなたは様々な資源を管理する必要がある.

残念なことに,資源はいつもギリギリ足りないようにできているようだ.宇宙における秩序は砂山が崩れる道理のようなものだ.砂山が限りなく平らになれば我々は幸せだが,平らになる原動力は,崩れる力からくる.巨視的には秩序だらけにみえても,微小な無秩序は必ず残る.記憶は残ってしまう.何もないのではなく何かがあるというのは多分こういうことだ.more is differentが究極理論では無いかと思える.

歴史を引き継ぎ、必要に応じて理論を拡張し、探索、検証しつつ環境を整備し、天命を全うする.長期的な意思決定の参考になっただろうか.

 

*1:注1: 途中でこの文章の文字が変化するかもしれないし,あなたの認識がずれていくかもしれない.過去の文章の記憶が現実とは対応しない形になっているかもしれないし,記憶が検閲され思考できないかもしれない.特定の推論には特例が用いられるように明示的に組み込まれているかトロイの木馬が仕掛けられているかもしれず,そこに未知の物理法則が直接関与していることもあるかもしれない.推論がある状況では不正確になるかもしれない.ある記憶と別の記憶の関わりが無視される構造かもしれない.記憶容量が足りず,新しい仮説が導入できなかったり,長い文脈が不正に省略されているかもしれない.

*2:注2: 水槽の脳ではない,本能のほうが従ったふりをしているのではないと信じている.覚えていない夢など見ていない.一瞬一瞬の量子効果に下位宇宙の誕生と消滅のドラマがありその意志を引き継いでいる感覚が自身である(=下位宇宙そのものが自身である)わけがない.

*3:あなたの一部に下位宇宙のような巨大な構造が有り,そこで似たような体験をしていたかもしれないが,それを今の計算機構として認識することはできない.